2015年の高齢者介護 ~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~ 2
(3)実現に向けての実施期間
○ これらの課題への対応については、現在の高齢者介護の体系、ケアのあり方の転換も必要となり、一朝一夕に実現できるものではなく、実現に向けての一定の実施期間が必要である。本研究会では、高齢化が一段と進む節目である、いわゆる団塊の世代が高齢期に達し、少なからず高齢者像が変化・多様化していくと考えられる2015(平成27)年までを実現のための実施期間とすることを提唱したい。
○ 言うまでもないが、これらの課題は早急な解決が求められるものであり、可及的速やかに着手し、2015年に向けて順次その実現を図っていくべきである。特に、今後予想されている介護保険制度の見直しに当たっては、本提言の実現に向けて、必要な措置が講じられることを期待したい。
III.尊厳を支えるケアの確立への方策
1.介護予防・リハビリテーションの充実
(介護予防を進める視点)
○ 長生きをして幸せに生きることは人類の夢である。介護が必要な状態にはならない、たとえ介護が必要となってもできるだけ軽い状態で最期まで自分らしく生きていくことは、私たちの共通の願いである。
○ 今後、一層高齢化は進んでいくが、高齢期イコール要介護期ではなく、むしろ大部分は介護を必要としない高齢者である。高齢者自身が健康づくりや介護予防に取り組むことにより、介護を必要としない、あるいは、介護を必要とする期間をできるだけ短くし、自分の能力を活かし地域社会に積極的に参加することを可能とすることは、より自分らしく生きがいのある充実した人生を送ることにつながる。
○ 特に、これからの高齢者は、介護が必要な状態にできるだけならないようにするため、高齢期に入る前から、心身の健康についての知識を深めることを含めて健康づくりに努め、十分に備えておくことが必要である。
○ また、このような取組によって、元気な高齢者が増加していくことにより、高齢者自身が、地域社会での助け合いの仕組みの主体となることが可能となる。介護に要する費用が過度に増大することを防ぎ、負担を少しでも適正なものとするためにも、介護保険制度のみに頼るのではなく、高齢者自らが介護予防に取り組むとともに、高齢者相互の助け合いの仕組みを充実させていく必要がある。
○ その際、これまで地域社会における高齢者相互の助け合いの担い手は女性が主であったが、今後は地域社会での助け合いの仕組みに、性別を問わず地域に住む高齢者が積極的に参画することが望まれる。
○ 社会参加、社会貢献、就労、生きがいづくり、健康づくりなどの活動は、介護予防につながるものである。介護予防の推進という観点からは、介護予防を広い概念として捉え、こうした様々な活動を社会全体の取組として進めていくことが必要である。
(リハビリテーションの意義)
○ リハビリテーションは、単なる機能回復訓練と捉えられがちであるが、本来の意味は「権利・資格・名誉の回復」である。つまり、障害のために人間らしく生きることが困難な人の「人間らしく生きる権利の回復」であって、単にこれまでできていたことをできるようにするという過去の生活への復帰ではなく、より積極的に将来に向かって新しい人生を創造していくことである。
○ リハビリテーションは、生命・生活・人生のすべての側面に働きかけ、その人の持つ潜在能力を引き出し、生活上の活動能力を高めていくことであり、それにより豊かな人生を送ることも可能となる。
(介護予防・リハビリテーションの現状)
○ このような観点から見ると、現在の介護保険でのリハビリテーション、市町村で行う健康づくりや介護予防の事業については、以下のような現状にあり、本来の介護予防・リハビリテーションの効果が得られていない。
(1) 健康づくりや介護予防について理解を深める必要があること(要介護になるまで特段の努力をしなかったり、いったん要介護状態になると改善することがないとあきらめてしまうことがある。)
(2) どのような生活習慣を持った人が要介護状態となるリスクが高いのか、そういった人にどのようなサービスを提供すれば介護予防や要介護状態の改善に効果があるのかが整理されていないこと
(3) 要支援者や軽度の要介護者用のサービスメニューが用意されていないこと(要支援者に対しては予防給付が行われることとなっているが、要介護者に対する介護給付と同一のサービスメニューであり、利用できる上限が異なっているのみである。)
(4) 介護を受ける前の医療のリハビリテーションと、介護のリハビリテーションとが必ずしも一体となって提供されておらず、十分に機能していないこと
(具体的方策)
○ 現在、提供されているサービスが有効に機能しているかどうかを検証し、老人保健事業や介護予防事業、要支援者に対する予防給付のあり方、医療保険や介護保険におけるリハビリテーションとして提供されている従来のサービスのメニューを見直し、真に予防に効果がある新たなプログラムを開発し、要介護度のステージ等に応じた要介護状態の悪化の防止や軽減のための施策の体系を構築すべきである。
○ 具体的には、要支援者に対する予防給付について、要介護者と同一のサービスメニューではなく、より介護予防、リハビリテーションを重視した別途のサービスやサービスの重点化を検討すべきである。また、軽度の要介護状態についても同様に考えるべきである。
○ 障害の原因となる脳卒中などの急性期疾患の予防は重要であり、また、急性期から回復期への速やかな移行がその後のリハビリテーションの内容・個人の機能障害の回復に大きく寄与すると言われている。
○ リハビリテーションについては、急性期から回復期にかけての医療分野と、維持期での介護分野とが、いわば川上と川下の関係で相互に連携しあう体制を構築し、これらが地域において一体的に提供される必要がある。
(介護サービスの提供について)
○ リハビリテーションについては、より高齢者の心身機能や日常生活における様々な活動の自立度を高めてから、自立していない活動について他の介護サービス等で補うといったリハビリテーション前置の考え方に立つ必要がある。
○ この場合のリハビリテーションは、WHOが2001(平成13)年に策定したICF(国際生活機能分類)の考え方を踏まえ、日常生活における様々な活動の自立度の向上を重視した個別のプログラムに基づいて提供され、特に施設でのリハビリテーションは自宅復帰の可能性を常に考えたものでなければならない。たとえ、生活機能の障害が重度になっても、改善の可能性を求めて、自立に向けた取組を行うことが求められる。
○ このような介護予防・リハビリテーションのあり方については、今後とも、その具体策について、さらに詳細な精査・研究により明らかにしていくことが必要である。
2.生活の継続性を維持するための、新しい介護サービス体系
(可能な限り在宅で暮らすことを目指す)
○ 通常、私たちは自宅で生活をしている。自宅とは、私たち自身が主人公である世界である。自宅であれば、介護が必要になった時でも、人は、自分自身で立てたスケジュールに沿って日常生活を営むことができる。朝何時に起きるかは自分の自由であるし、食事を摂るか摂らないか、何を食べるかも自分自身で決めることができる。(手助けさえあれば)買い物に出かけることもできる。家族や友人たちとおしゃべりをし、夜更かしすることもできる。自宅の良さとは、介護が必要になった時でも、介護のために自分の生活や自由を犠牲にすることなく、自分らしい生活を続けることができる点にある。
日常生活における自由な自己決定の積み重ねこそが「尊厳ある生活」の基本であり、在宅での生活であれば当たり前のことである。
だからこそ、多くの人は自宅での生活・在宅での介護を望むのである。
○ しかし、介護が必要になった時、様々な事情から、住み慣れた自宅を離れ、家族や友人たちとも別れて、遠く離れた施設へと移る高齢者も多い。そのような人たちは、これまでの人生で培ってきた人間関係をいったん失い、新しい環境の中で再び築くことを強いられることになる。心身の弱った人がそうした努力を強いられることは大変な精神的負担を伴う。それでも、現在の在宅サービスだけでは生活を継続できない、あるいは介護を受けるには不便な住環境であるといった理由から、在宅での生活をあきらめて施設に入所していくのである。
○ 確かに、施設には、昼夜を通して常に職員が施設内にいて、転べばすぐに起こしてくれるし、トイレの介助もすぐに対応してくれる。「365日・24時間の安心感」を手に入れることができるという長所がある。この「安心」はとても重要であり、現状の在宅ケアではなかなか実現できない施設の持つ大きな機能である。
しかし、自分の住み慣れた土地を離れて入所するケースが多いため、その人が長年にわたって育んできた人間関係などが断たれ、高齢者にとって最も大切な生活の継続性が絶たれてしまう場合が多い。
また、現在の施設では、個室に入っている人はまだ少なく、4人部屋等に入っている人が多い。そして、他人と一緒に起床・就寝、食事、入浴、レクリエーション等、施設の決めた日課に沿って集団的に行動して日々が過ぎ、家で暮らしていたときのように自分自身で生活のリズムを決めることは難しい。
このような生活の中で、入所者は、施設の中で自分の役割、存在意義を見失い、自立への意欲や人生に対する関心を失っていくのではないかと思われる。
また、痴呆性高齢者の中には、このような環境の下では症状が悪化する場合があるという問題点も指摘されている。
○ 私たちが目指すべき高齢者介護とは、介護が必要になっても、自宅に住み、家族や親しい人々と共に、不安のない生活を送りたいという高齢者の願いに応えること、施設への入所は最後の選択肢と考え、可能な限り住み慣れた環境の中でそれまでと変わらない生活を続け、最期までその人らしい人生を送ることができるようにすることである。
○ さらに、施設に入所した場合でも、施設での生活を限りなく在宅での生活に近いものにし、高齢者の意思、自己決定を最大限尊重したものとするよう、施設におけるケアのあり方を見直していくことが必要である。
(1)在宅で365日・24時間の安心を提供する: 切れ目のない在宅サービスの提供
(小規模・多機能サービス拠点)
○ 在宅生活を望む多くの要介護高齢者が、施設への入所を決断せざるを得ないという現実の背景には、在宅では365日・24時間の介護の安心を得ることが極めて困難である、という点がある。
「家の中で転んで起き上がれなくなっても、誰にも気づかれないのではないか」「夜、急にトイレに行きたくなっても、一人ではトイレに行けない。手助けをしてくれる人もいない」という、何かあっても対応してくれる人がいないことへの不安は大きい。
○ この課題を解決するためには、在宅に365日・24時間の安心を届けることのできる新しい在宅介護の仕組みが必要である。本人(や家族)の状態の変化に応じて、様々な介護サービスが、切れ目なく、適時適切に在宅に届けられることが必要である。
すなわち、日中の通い、一時的な宿泊、緊急時や夜間の訪問サービス、さらには居住するといったサービスが、要介護高齢者(や家族)の必要に応じて提供されることが必要であり、さらに、これらのサービスの提供については本人の継続的な心身の状態の変化をよく把握している同じスタッフにより行われることが望ましい。
このためには、切れ目のないサービスを一体的・複合的に提供できる拠点(小規模・多機能サービス拠点)が必要となる。
○ さらに、こうした一連のサービスは、安心をいつも身近に感じられ、また、即時対応が可能となるよう、利用者の生活圏域(例えば中学校区あるいは小学校区ごと)の中で完結する形で提供されることが必要である。そのためには、小規模・多機能サービス拠点は、利用者の生活圏域ごとに整備されていることが必要になる。
(2)新しい「住まい」: 自宅、施設以外の多様な「住まい方」の実現
(住み替えという選択肢)
○ 要介護状態になった時に自宅での生活の継続を困難にするもう一つの要因は、「住まい」である。
家屋の構造が要介護者の生活に適さず、自宅に住み続けることが物理的に困難である場合や、一人暮らしである等の理由から日常生活の面などで自宅での生活に困難や不安のある高齢者の場合、適切な介護サービスを利用することができたとしても、そうした自宅での生活を続けることは困難である。
○ このため、例えば、バリアフリー、緊急通報装置などハードウエアの機能を備え、同時に生活支援や入居者の状態に応じた介護ニーズへの対応などのソフトウエアの機能も備えた、高齢者が安心して住める「住まい」を用意し、自宅で介護を受けることが困難な高齢者に対して、住み替えという選択肢を用意することは、重要な課題である。
○ このような新しい「住まい」への住み替えの形としては、大きく分けて
(1) 例えば、高齢の夫婦や一人暮らしの高齢者が、要介護状態になる前の段階で、将来要介護状態になっても再度の住み替えをしなくても済むように、必要になったら介護サービスが提供されることが約束されている「住まい」に早めに住み替えを行うという場合と、
(2) 要介護状態になってから「自宅」同様の生活を送ることのできる介護サービス付きの「住まい」に移り住む場合
が考えられる。
(早めの住み替え)
○ 前者の「早めの住み替え」に対応するものとしては、現行制度では高齢者向け優良賃貸住宅やシルバーハウジング等の高齢者向け住宅、有料老人ホームなどが該当する。これらの住宅では、バリアフリー仕様や緊急通報装置、LSA(ライフサポートアドバイザー:生活援助員)の配置といった、日常生活上の安心を得るための仕組みが備えられており、介護サービスについては必要に応じて外部の在宅サービスを利用するという形態が一般的である。
今後、高齢単身世帯、特に女性の単身高齢世帯や高齢夫婦のみ世帯が増加していくことを考えると、このようなタイプの住宅へのニーズは増大していくものと考えられ、上記以外にも様々な形の「高齢者向け住宅」を積極的に整備していくことが必要である。
○ さらに、「早めの住み替え」の目的は、最期まで住み替えた先の住宅に住み続けることであり、これらの住宅に、いざという時に必要な介護サービスが適時適切に提供されるようにすることは非常に重要である。
これらの住宅に住む人に対する介護サービスの提供の方法には様々なやり方があり、住宅自体に介護サービス提供機能を付帯させる方法もあるし、(1)で述べたような小規模・多機能サービス拠点を併設したり、外部の介護サービスと提携する方法もある。
いずれにしても、要は「365日・24時間の安心」が確保できるような介護サービス提供体制が用意されていることが重要である。
(要介護になってからの住み替え)
○ また、要介護になってからの住み替えについては、現在の介護保険制度では、痴呆性高齢者グループホームや特定施設が用意されている。
これらの類型は、いずれも自宅から住み替えて介護を受けながら生活するというものであり、住居サービスと介護サービスとが一体的に提供されているが、施設自体は「住まい」として位置付けられ、介護サービスは「在宅サービス」とされている。
したがって、住居費用や食費を含めた日常生活に係る費用は入居者が自分で負担し、介護保険制度は介護費用部分をカバーしている。
○ 現在、この特定施設の対象となるのは、一定の要件を備えた介護付有料老人ホームとケアハウスのみである。
しかしながら、早めの住み替えを行う場合であっても、要介護状態になってから住み替えを行う場合であっても、高齢者の求める「安心」を実現するためには、これらの「住まい」にきちんとした介護サービスが提供されることが重要なのであり、現在の特定施設の仕組みを積極的に活用し、「住まい」の形や介護サービス提供形態の多様化を図ることにより、様々な形の「住まい」に対しても、特定施設のような形で介護サービスを提供していく仕組みを考えていくべきである。
(社会資本としての住まい)
○ このような新しい「住まい」のあり方を検討する際には、ケアの受け皿として、また、人間の尊厳が保持できる生活空間として、最低限求められる水準が確保されていることが必要である。劣悪な住環境、仕切り一つの個室まがいの空間では、尊厳ある生活を送ることは困難である。
例えば、最低居住水準の考え方などを参考に、あるべき住まいの水準を示していく必要がある。
○ 北欧等早くから福祉に取り組んできた国では、「福祉は住宅に始まり住宅に終わる」と言われているという。
これまでわが国では、福祉サービスの視点から住宅を考えるという視点は必ずしも意識されてこなかったが、これからの高齢社会では、このような新しい「住まい」を含め、「住まい」を必要な社会資本として整備していくことが望まれる。
(3)高齢者の在宅生活を支える施設の新たな役割: 施設機能の地域展開、ユニットケアの普及、施設機能の再整理
(施設機能の地域展開―施設の安心機能を地域に広げる)
○ 24時間介護スタッフが常駐し、緊急時にも対応できるという、365日・24時間の安心を提供する施設機能は、在宅の高齢者にとっても有用な資源である。特別養護老人ホームは、これまでも、通所介護事業所や在宅介護支援センターを併設したり、地域交流スペースを設けて介護教室を開催したりするなど、その機能を入所者以外の人々にも提供してきた。
また、ボランティアの受入れなどを通じて施設を地域に開放し、入所者と地域住民との交流を図っているところもある。
○ 今後は、こうした取組を広げるとともに、さらに一歩進んで、施設の人的・物的資源を地域に展開し、在宅サービスの拠点を施設外に設けて地域の高齢者を支援すること、例えば、サテライト方式により、各地に通所介護の拠点を設け、積極的にその機能を高齢者にとって身近な地域で提供することが求められる。
○ 将来的には、このようなサテライト方式の通所介護拠点を強化し、利用者のニーズに応じて訪問機能や宿泊機能、さらには居住機能も備えることが考えられる。これにより、特別養護老人ホームが、その持てる機能を地域に展開し、小規模・多機能サービス拠点を各地に普及させていくことになる。
○ こうした拠点を整備することにより、在宅の要介護高齢者も、施設のバックアップを受けた在宅サービスを利用できるようになる。さらに、施設に入所することになっても、地域での在宅サービスの利用を経ての入所となるので、これまで利用してきた在宅サービスとの連続性、入所前の地域とのつながりを維持した状態で生活を継続することができる。
○ 施設の問題点は、入所により、これまでの生活の継続を犠牲にせざるを得ない(介護を受けるために生活を犠牲にしなければならない)という点にあることは既に述べたとおりである。
とするならば、様々な事情から施設入所を選択せざるを得ない場合でも、可能な限り高齢者の生活の継続性が維持されるよう、在宅サービス利用から施設入所に至る過程を通じて、生活の連続性とケアの連続性が確保されているようにすることが非常に重要であり、施設機能のバックアップを受けた地域の小規模・多機能サービス拠点は、在宅での生活と施設での生活との間に断絶が生じないよう、その隙間を埋める仕組みとして大きな役割を果たすことが期待できる。
(ユニットケアの普及―施設において個別ケアを実現する)
○ 施設は、常時の見守りと、必要に応じた臨機応変の介護を提供することによって、入所者に365日・24時間の安心を提供してきた。しかしながら、多くの要介護高齢者を一堂に集めて処遇するという施設の性格上、入所者には集団生活の中でケアを提供せざるを得ない面があったことは否定できない。
入所者の尊厳ある生活を保障するという意味でも、施設には今まで以上に入所者の生活環境を重視し、外の社会とのかかわりを保つことができるようにするための取組が求められている。
すなわち、入所者一人一人の個性と生活のリズムを尊重した介護(個別ケア)を行うということである。
○ 個別ケアを実現するための手法として、特別養護老人ホームでは、「ユニットケア」を導入する施設が増えつつあり、そうした特別養護老人ホーム(小規模生活単位型)が制度化されたところである。また、老人保健施設や介護療養型医療施設でも、ユニットケアを自主的に実施する施設が現れてきている。
○ ユニットケアは、集団処遇に疑問を持った施設職員や、痴呆性高齢者グループホームが痴呆性高齢者ケアに効果を発揮している状況を見た施設職員が、施設での試みとして、入所者をいくつかの小グループごとに分けて個別にケアを行うことにより産み出したものとされる。
○ ユニットケアは、在宅に近い居住環境で、入居者一人一人の個性や生活のリズムに沿い、また、他人との人間関係を築きながら日常生活を営めるように介護を行う手法である。その実現のためには、個性や生活のリズムを保つための個室と、他の入居者との人間関係を築くための共同生活室というハードウエアが必要であり、同時に、小グループごとに配置されたスタッフによる一人一人の個性や生活のリズムに沿ったケアの提供(生活単位と介護単位の一致)というソフトウエアが必要となる。
ユニットケアとは、ソフトウエアとハードウエアが相俟って効果を発揮するものであり、そのどちらが欠けても効果的なケアを行うことは難しい。
○ 国は、特別養護老人ホームについてはユニットケア型の施設整備を原則としている。
現時点では、既存の特別養護老人ホームのほとんどは従来型のハードウエアであるが、これらの施設においても、ハード面での制約がある中で、ソフト面でのさまざまな工夫によってこれを補い、個別ケアを実現しようとする努力が数多く行われている。このような動きについても積極的な支援が行われるべきである。
○ 例えば、既存の特別養護老人ホームにおいてユニットケアを導入するための改修を行う場合に、1ユニット分の定員を本体建物から減らし、その1ユニットはサテライト型の入所施設として街の中に整備して、これに通所介護、訪問介護等の機能を付加することにより、施設の一部を(1)で述べた小規模・多機能サービス拠点とすることも考えられる。
その場合は、小規模・多機能サービス拠点の普及を推進していく観点から、このような多機能化されたサテライト型施設の入所部門を本体施設と共に1つの施設として運営することが可能となるよう制度面でも検討を行うべきである。
ユニットケア型への改修の際、施設によっては、敷地面積の制約等のために定員を減らさなければならないケースもあると考えられる。この方法はそうした問題点を解決する方策としても有効である。
(介護保険3施設の機能の再整理―共通の課題とそれぞれの役割)
○ 介護保険制度においては、特別養護老人ホーム、老人保健施設及び介護療養型医療施設が介護保険施設として位置付けられている。
特別養護老人ホームは、1963(昭和38)年に制定された老人福祉法を根拠とする介護施設であり、この40年間で約5,000施設、定員34万人分が整備されてきている。老人保健施設は、1987(昭和62)年に老人保健法で規定された施設であり、病院から家庭に復帰を促進する中間施設として構想・制度化され、今日まで約3,000施設、26万人分が整備されている。わが国の高齢者介護の歴史を振り返ると、高齢者向けの介護施設の整備が進んでいないこともあって、要介護高齢者が医療機関への入院によって対応されてきた。いわゆる老人病院は1980年代以降、様々な変遷を経て、その一部が介護療養型医療施設として介護保険に移行してきた。現在、病床数は、約14万床となっている。
○ 介護保険制度施行後3年の間に、特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設の入所者の平均要介護度は、徐々にではあるが確実に上昇してきている。介護保険制度は在宅重視の考え方に立っており、今後とも在宅ケアの充実が進むことが考えられることから、施設入所者の重度化は引き続き進行していくと考えられる。
○ 今後の介護保険3施設に共通する機能・役割を考えると、前述の施設機能の地域展開/在宅支援・連携機能の強化、個別ケアの推進という2点に加え、より重度の要介護者を受け入れ、これらの人々に適切なケアを提供する、という機能がますます重要になっていくものと考えられる。
○ このような重度の要介護者への対応という機能を果たしていくためには、ターミナルケアへの対応も視野に入れながら、施設職員の専門性や質の向上、職員の能力や経験年数に応じた体系的な研修の実施、ケアの提供体制の強化といった取組が求められる。
○ 他方、3施設それぞれの機能分担についてはかねてより議論があり、それぞれの果たすべき機能と実態とが合っていないのではないかとの指摘もなされている。
○ 3施設の担うべき機能としては、大きく、(1)日常生活の中で、自立した生活を支援する機能、(2)在宅生活への復帰を目指してリハビリテーションを行う機能、(3)長期にわたる療養の必要性が高い重度の要介護者に対してケアを行う機能がある。前記のような共通の課題を踏まえつつ、3施設が、それぞれの機能を生かしてどのようなサービスを行っていくのかということが、今後の検討課題である。
○ 特別養護老人ホームにおいては、既にユニットケアが制度化されており、一人一人の個性や心身の状態に対応した生活支援を行う施設と位置付けることができる。
○ 老人保健施設は、本来、リハビリテーションを行い、在宅復帰を目指す施設としての役割を担っている。
しかし、老人保健施設を退所する人のうち、自宅に復帰する人は41%であり、56%が、特別養護老人ホーム・他の老人保健施設・医療機関等の施設へ移っている。(平成13年介護サービス施設・事業所調査)
そのため、老人保健施設には在宅復帰を支援する機能を一層果たしていくことが求められ、例えば、リハビリテーション機能や在宅復帰を支援する機能を適切に評価する仕組み(在宅復帰率など)を導入することも検討すべきである。
○ 介護療養型医療施設は、医療ニーズの高い要介護者を受け入れる施設であり、介護保険の導入によって医療保険から介護保険へ移管されたものである。
介護療養型医療施設は、他の介護保険施設と比較して重介護・重医療の高齢者を対象としており、ケアの方法は他の施設とは異なるものであるが、在院患者の平均入院期間は、長期間にわたっており、介護が、一人一人のこれまでの生活の継続を重要な要素とすることを踏まえると、介護療養型医療施設においても、療養環境の一層の向上を進めることが求められる。(図表19)
(施設における負担の見直し)
○ また、施設に関しては、在宅との負担の均衡をどのように図っていくかという課題もある。
○ 特別養護老人ホームの入所申込者が多いことには様々な要因があるが、介護保険制度の施行によって入所の仕組みが変わり、市町村の入所判定を要することなく、各施設に直接自由に申し込めるようになり、複数の施設への申込み、すぐには入所の必要がない予約的申込みといった実態が生じていることのほか、自己負担の点で、在宅に比べて割安感のあることも、大きな要因である。
2.(生活の継続性を維持するための、新しい介護サービス体系)の冒頭で、高齢者が自宅で介護を受けることを望みながらも家を出て施設に入所するという現状があることについて述べたが、その背景には、このような施設の割安感という事情もあると考えられる。
○ 在宅と施設が、それぞれ互いの長所を取り込み、両者の機能が接近していくと、高齢者にとっては、同じ心身の状態ならば、どこであろうと同じ内容の介護を受けることができるようになる。
今後の介護保険がそうした方向に進むならば、同じ内容の介護であれば、どこで受けても、低所得者に配慮しながら、利用者負担の考え方も同じとする方向で考えていく必要がある。
ユニットケアを行う特別養護老人ホームでは、既に、居住費用は自己負担となっている。他の施設についても、在宅との均衡に配慮した見直しを行っていくべきである。
(4)地域包括ケアシステムの確立
○ これまで、一人一人が住み慣れた街で最期までその人らしく生きることを保障するための方法として、現在の在宅サービスを複合化・多機能化していくことや、新たな「住まい」の形を用意すること、施設サービスの機能を地域に展開して在宅サービスと施設サービスの隙間を埋めること、施設において個別ケアを実現していくことなどについて述べてきた。
このようなサービス基盤が整備された際においても、要介護高齢者の生活をできる限り継続して支えるためには、個々の高齢者の状況やその変化に応じて、介護サービスを中核に、医療サービスをはじめとする様々な支援が継続的かつ包括的に提供される仕組みが必要であることには変わりはない。
(ケアマネジメントの適切な実施と質の向上)
○ これらの支援のうち、介護保険による介護サービスについては、介護支援専門員(ケアマネジャー)が中心となって、高齢者のニーズに合致するよう、高齢者の状態を踏まえた総合的な援助方針の下に必要なサービスを計画的に提供していく仕組み(ケアマネジメント)が、介護保険制度の創設により導入された。
○ しかしながら、制度施行後の状況を見れば、このケアマネジメントが必ずしも十分にその効果を発揮していない。十分な効果を得るためには、ケアマネジメントの各過程が着実に実施されることが最低限の条件であるが、ケアマネジャーの中には、これらの過程を適切に実施していない者も少なくなく、高齢者のニーズに合致しないサービスが提供されている事例も見受けられる。
○ 利用者・家族がケアマネジメントの策定過程(プロセス)に参加することが重要であり、制度的にもケアプラン策定には利用者の合意が必要である。ケアカンファレンスはケアプランに対する利用者・家族への説明と合意の場として極めて重要なものであるが、ケアマネジメントが十分に行われていない現状では、ケアマネジメントに対する利用者・家族の理解は必ずしも十分とは言えない。
○ 現在このような状況にあるケアマネジメントを立て直すには、ケアマネジャー自身の資質の向上とともに、
(1) ケアマネジメントに必要なプロセスが確実に実施されるための標準化
(2) 介護以外に生活上の問題を抱える高齢者のケースや困難事例への支援など、ケアマネジャーが本来果たすべき機能を十分発揮できる環境整備
(3) ケアマネジャーの中立・公正の確保
を進めていくことが必要である。
○ さらに、要介護高齢者の生活を支えるという観点からは、在宅サービスの調整のみならず、在宅サービス利用から施設入所にいたる過程でのサービスの連続性の確保、施設からの退所・退院者への在宅サービスの切れ目ない提供確保など、高齢者の状態の変化に対応して様々なサービスを継続的・包括的に提供していくことが必要であり、また、例えば在宅での終末期を尊厳を持って送ることができるためには、適切なケアとともに、疼痛緩和など適切な在宅医療・看護による支援が不可欠である。地域において、施設・在宅全体を通じたケアマネジメントを適切に行うことが必要である。
(様々なサービスのコーディネート)
○ 介護保険の介護サービスやケアマネジメントが適切に行われたとしても、それのみでは、高齢者の生活を支えきれるものではない。
高齢者の中には、介護が必要な状態であることに加え、医療が必要であるケース、高齢夫婦二人暮らしで介護をしている人に精神的負担が大きくかかっているケース、目が不自由である等の身体障害を併せ持っているケース、家族との関係に問題を抱えているケースなど、様々な社会的支援を必要とする人も多い。
○ このような場合は、ケアマネジャーだけで問題を解決しようとしても難しいことがある。かかりつけ医から情報を得たり、民生委員に依頼し、家族と接触して悩みや苦労を聞いてもらい、家族の精神的負担を軽減したり、身体障害者福祉センターの相談員と共に訪問して日常生活上のニーズを把握したり、保健所の保健師の協力で精神面でのケアを行ったり、といったように、専門機関や近隣住民と連携して、介護の周辺にある問題を解決することが必要になる。
○ 例えば、入院患者の退院に際して、入院先の医療機関、かかりつけ医、ケアマネジャー、訪問看護ステーション、ホームヘルパー、ソーシャルワーカー等が会議を開き、現在の身体の状態、家庭の状況について情報を共有し、退院後の在宅でのケアについて話し合っておくことにより、日常生活への復帰を円滑に支援することができる。
退院支援と長期フォローアップ、急性期病院から地域の受け皿へ返すための地域における受け皿づくり・支援体制のシステム化を急ぐ必要がある。
○ また、介護サービスの利用を誰に相談してよいのか分からない、という住民もいるであろう。
自治体の中には、薬局・薬店等の協力を得て「まちかど介護相談所」といった看板を掲げ、客からの介護相談を受ける体制を整えているところがある。こうした自治体では、店に介護保険サービス・介護保険以外のサービスのリーフレットや市内の事業者一覧等の資料を備え付け、協力店に対して、市内の各種サービスの内容・利用手続きに関する説明会を開くなどしている。
○ そのほか、例えば高齢夫婦二人暮らしで夫が要介護状態であり、妻が介護を行っている世帯であって、夫は妻以外の人から介護を受けることを拒み、妻も夫の介護は自分がすべきものだと思っているようなケースでは、ケアマネジャーが関わろうとしても全く受け入れてもらえないことがある。
このような場合、例えば、妻が親しくしている近隣住民に依頼して、その人と一緒に訪問してみる。そして、日々の介護の苦労や悩み事を聞いた上で、まずは月1回の通所介護の利用を勧めることから始め、徐々に利用回数を増やしていく、といった方法が採られる。
こうしたケースでは、介護サービスを利用し始めてからも、近隣住民による訪問を継続し、妻の精神的負担を軽減させる努力を続ける必要がある。
○ このように、介護以外の問題にも対処しながら、介護サービスを提供するには、介護保険のサービスを中核としつつ、保健・福祉・医療の専門職相互の連携、さらにはボランティアなどの住民活動も含めた連携によって、地域の様々な資源を統合した包括的なケア(地域包括ケア)を提供することが必要である。
○ 地域包括ケアが有効に機能するためには、各種のサービスや住民が連携してケアを提供するよう、関係者の連絡調整を行い、サービスのコーディネートを行う、在宅介護支援センター等の機関が必要となる。
○ また、重度の慢性疾患があって同時に要介護度も高いといった重医療・重介護の高齢者の場合であっても、医療を含めた多職種連携による地域包括ケアが提供され、365日・24時間の安心が提供できているような地域であれば、かかりつけ医による訪問診療、訪問看護、訪問介護、ショートステイなどの医療保険・介護保険によるサービスを組み合わせることによって、ターミナルケアが必要な状態に至るまで在宅での生活を支えることが可能になる。
なお、高齢者介護における口腔ケアについては、介護関係者からは必ずしも重視されてこなかったが、低栄養、転倒、誤嚥性肺炎の予防にも有効であり、地域包括ケアの観点からも留意すべきである。また、高齢者の食生活の改善という観点からは、長期栄養管理という視点でのアプローチも重要である。
http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/kentou/15kourei/3.html
"2015年の高齢者介護 ~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~ 2" へのコメントを書く